書評:禅宗と景教(放下着)
<スライドショー:放下着>
中世ドイツのキリスト教神秘主義者たちは、『我執を捨て、神に委ねきる』生き方を『ゲラッセンハイト』と称し、日本のキリスト教徒はその訳語に禅語『放下(ほうげ)』を用いている。
ドイツの哲学者マルティン・ハイデガー(1889-1976)は、故郷メスキルヒで同地出身の作曲家コンラディン・クロイツァー(Conradin Kreutzer、1780-1849)生誕175年記念講演を行った際、『放下(Gelassenheit)』を演題とするスピーチを行った。
ハイデガーとエックハルトの放下
ハイデガーによれば、『放下(Gelassenheit)』とは、人間がこの世で直面する諸事物全てに対して等しく等距離を保ち、それらに一切惑わされない態度を意味し、このような『単純で平穏な』態度は、この世界の隠された意味へ人間を誘うと言う。
ハイデガー自身が述べているように、この『放下=ゲラッセンハイト(Gelassenheit)』と言う言葉は、マイスター・エックハルト神秘主義思想の根本語の一つに由来する。しかしフランスの中世哲学史家アラン・ド・リベラ(Alain de Libera)は、ハイデガーの『ゲラッセンハイト』とエックハルトの『ゲラッセンハイト』は厳密に区別する必要があると指摘していると言う。
「離脱・放下」攷(一)A Study of "Abegescheidenheit and Gelassenheit" Chapter 1
御言葉の誕生
神学者の桑原直己筑波大学名誉教授(1954-)によると、中世の神秘主義者エックハルトの『放下』とは、『神』以外のあらゆるものから離脱し、被造物としての属性を捨て去り、神と合一することであり、彼は、「人間は自己を無化する『放下(Gelassenheit)』を通じ、あらゆる被造物の有限性を突破することにより、神と一致することができる」とし、人間と神とのこの一致を『魂の根底における御言葉(=神の子・キリスト)の誕生』と述べている。(
「婚姻神秘主義」と「本質神秘主義」)
倶利伽羅悟道の因縁
その昔、インドに四禅(四段階の禅定)を修し、天眼、天耳、神足、心通(他人の心を見通す)、命通(宿命を占う)の五神通力を備えたクリカラ(倶利伽羅:黒龍の化身)と言うバラモン僧がいた。帝釈天や閻魔大王もクリカラ尊者の法話を賛嘆したと言う。
ところが、クリカラ尊者の法話を聞いた閻魔大王は、「これほどすばらしい法話をなさる方が7日後には地獄に堕ちねばならないとは」と落涙した。クリカラ尊者は落胆したが、天使が現れ、最近菩提樹の下で悟りを開いた釈迦ならあなたの悩みを解決してくれるだろうと教えた。クリカラ尊者は早速、梧桐(アオギリ)を両手にもって喜び勇んで、釈迦を訪ねた。
釈迦は、クリカラ尊者を目にすると、放捨(ほうしゃ:捨てる、喜捨する、供養する)、放捨と言った。クリカラ尊者は言われた通り両手に持ったアオギリを釈迦の左右に供えた。すると釈迦はまた放捨、放捨と言った。クリカラ尊者は、「私はもう何も持っていません。この上何を放捨すればいいのですか」、と問うた。すると釈迦は「何も供養してくれなどとは言っていない。あなたの前も後も内も外もすべて捨てなさいと言ったのだ。外の6塵、内の6根、中の6識、すべて捨て去り、もはや捨てるものがなくなれば、あなたは生死を解脱することができる」と説き聞かせた。≪黒氏梵志経(こくしぼんしきょう)≫
放下着
時代は下って、中国唐代の趙州従諗(じょうしゅうじゅうしん)禅師(778-897)に、厳陽(ごんよう)と言う僧が、「手に一物も持たざる時は如何(いかん)」と問うた。趙州和尚は、釈迦と同じように「放下着(ほうげじゃく:捨て置け)」と答えた。僧もクリカラ尊者と同じように「何も持っていないのに、さらに何を捨てろと言うのか」と聞き返した。趙州和尚は「それなら持って帰れ」と答えた。≪五灯会元≫≪従容録第五十七則≫
- 禅宗と景教≪ヨハネ福音書≫と現成公案[16]放下着 -
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【テーゼ】 『人は、人の子の証しを受け入れ、聖霊のバプテスマを受けることにより永遠の命を得られる(ヨハネ5:24)』。
【アンチ・テーゼ】 しかし、『地上の人間は、決して天から来たものの証しを理解できない(ヨハネ3:32)』。
それでは、地上の人間はどうして永遠の命を得られるのか。
【ジン・テーゼ】 『地上の人間は始めに神と共にあった言葉(ヨハネ1:1)に立ち返り、神が全き真理であることを自ら覚知すればよい(ヨハネ3:33)』。
文益禅師は「お前は慧超だ」と答えることにより、慧超自身の内に秘められた『真の自己(声前の一句)』を突きき付けたのである。
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