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禅宗と景教 シリーズ29:説似一物即不中

中国唐代の南嶽懐譲(なんがくえじょう)禅師が、初めて六祖慧能(えのう)禅師を訪ねた際、慧能が「どこから来た?」と尋ねると、懐譲は「嵩山から来ました。」と答えた。すると、慧能は「甚麼物(しぇんも・うー:どんなもの)が、恁麼来(ねんも・らい:どうやって来たて)?」と聞き返した。懐譲は、チンプン・カンプンで、一言も答えることができなかった。そこで、今回は『甚麼物恁麼来?』の公案に参じて見ましょう。

懐譲出家の因縁
懐譲禅師の俗姓は杜、唐の高宗の儀鳳二年四月八日、金州(現在の陝西省安康市)で生まれた。幼くして仏書を読み、15歳の時、荊州玉泉寺の弘景に就き出家、毘尼蔵(びにぞう=律蔵)を習いしが、同学の勧めで、嵩山の慧安(けいあん)国師に入門した。慧安国師は、五祖弘忍(ぐにん)の法嗣で、六祖慧能(えのう)とは兄弟弟子の間柄であったことから、懐譲は、慧安の勧めで曹渓の宝林寺(ほうりんじ)に慧能禅師を訪ねた。
説似一物即不中(せつじいちもつ、そくふちゅう)

慧能が「どこから来た?」と尋ねると、懐譲は「嵩山から来ました。」と答えた。すると、慧能は「しぇんも・うー(甚麼物:どんなもの)が、どうやって来たて(恁麼来:ねんも・らい)?」と聞き返した。
要するに『お前の本来の面目を見せてみろ』と言うのだが、懐譲は、チンプン・カンプンで、一言も答えることができなかった。
その後8年間慧能の下で修行し、『しぇんも・うー、ねんも・らい』の意を考究した懐譲は、ある日、ハタと悟り、早速慧能の方丈に入室、「初対面の際の師の質問の意味が、やっと分かりました」と告げると、慧能は、「ホー、そうか。言ってみろ。」と言った。
そこで懐譲は、「説似一物即不中(せつじいちもつ、そくふちゅう:説いて一物に似たるも中らず)」と答えた。つまり『本来の面目や仏性などと言うものは、何かそれらしいものを言いつのっても結局、言い当てることはできない』と言うのである。

修証即不無、汚染即不得
すると慧能は、「あーそうか。ならば修証(しゅうしょう)はできるか」とさらに突っ込んだ。
日本曹洞宗の開祖道元禅師は≪正法眼蔵弁道話≫の中で、「この法は、人々の分上(ぶんじょう)にゆたかにそなはれりといへども、いまだ修せざるにはあらはれず、証せざるにはうることなし」と述べている。
懐譲は『修証は無きにあらず(修証即不無)、汚染するを得ず(汚染即不得)』と答えた。つまり、「修証はないとは言わないが、そんなもので汚染されることはない」と言い切った。これは、まさに法性寺の印宗和尚に対して、「『瞑想』だの、『解脱』だの論じることはない」と言ってのけた慧能の見解そのものである。

般若多羅の預言と洪州宗の興隆
すると、慧能は「その通りだ、諸仏が護念するところであり、これだけは汚染されることはない。お前も私もどうようだ。」と懐譲の見解(けんげ)を認めた。
慧能はさらに「西天の(第二十七祖)般若多羅は、汝の足下から駿馬が湧出し、天下を平定する(踏殺天下人)と予言している。このことを心に留めさえすれば、慌てて口を開く必要はない。」と補足した。
これを聞いて豁然契会(かつぜんけいかい)した懐譲は、それからさらに15年、慧能のもとで修行、その後、南嶽に赴き、禅宗を大いに広めたため、死後、大慧禅師と諱(いみな)されたと言う。
ちなみに、『汝の足下から駿馬が湧出し、天下を平定する』と言う般若多羅の啓示は、六祖慧能そして南嶽懐譲の足下から馬祖道一禅師に率いられる洪州派が勃興することを預言したものと言う。

六祖慧能の法嗣
『景徳伝灯録』には、南嶽懐譲、青原行思、南陽慧忠、永嘉玄覚、荷沢神会等、正嗣33人、傍出10人、合計43人の錚々たる面々が列挙されており、この内、特に南嶽懐譲と青玄行思の法系が隆盛を極めたとされる。
しかし、慧能の法嗣は、資料によって大きな変遷があり、最初期の『神会話録』には神会一名のみが記され、敦煌本『六組壇経』では法海・忠誠・法達・智常・志通・志徹・志道・法珍・法如・神会の10名がかかげられているが、南嶽懐譲の名は見られず、神会以外の史実性は乏しいとされる。
慧能の著作としては、『六祖壇経』と『金剛経解義』があげられるが、両者ともにその成立には問題があると言う。

あなたを誰かに喩えることはできない
イエスが彼の弟子たちに言った、「私を誰かに比べて見なさい。そして私が誰と同じであるかを言ってみなさい。」シモン・ペテロが彼に言った、「あなたは義なる御使いと同じです。」マタイが彼に言った、「あなたは賢い哲学者と同じです。」トマスが彼に言った、「先生、私の口は、あなたが誰と同じであるかを言うのに全く堪えないでしょう。」
聖典福音書ではペテロが『あなたは生ける神(聖なる単独者)です(ヨハネ6:12)』と言ってイエスから賞賛されたと書かれている。しかしトマスが「あなたを誰かに比べるには忍びない」と言うと、イエスは「お前は私の教えの神髄を理解した。私の湧き出る泉から飲み、酔いしれたからである。最早私はお前の先生とは言うまい」と激賞した。(トマス13)
日本語版『トマスによる福音書』の著者荒井献氏によると、『泉』とは、それから飲めばイエスのようになることを約束された『命の泉』、本来的自己の象徴で、『御国』を指している。古代キリスト教最大の神学者とされるアレクサンドリアのオリゲネス(182?-251)も、『ケルソス反駁』において、「多くの人々が泉のまわりにいるのに、誰もその中に入らないのは何故か?」と問うている。
禅宗と景教シリーズ一覧
◆禅宗と景教 シリーズ01:禅宗の起源
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 01:The Origin of Zen Buddhism
◆禅宗与景教 系列 01:禅宗的起源

◆禅宗と景教 シリーズ02:廓然無聖
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 02:Clear and void, no holiness
◆禅宗与景教 系列 02:廓然无圣
◆禅宗と景教 シリーズ03:再活現成
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 03:Spiritual rebirth
◆禅宗与景教 系列 03:再活现成

◆禅宗と景教 シリーズ04:十牛図
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 04:Ten Ox Herding Pictures
◆禅宗与景教 系列 04:十牛图
◆禅宗と景教 シリーズ05:鉄牛の機
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 05:The workings of the Iron Ox
◆禅宗与景教 系列 05:铁牛之机

◆禅宗と景教 シリーズ06:驀直に去れ
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 06:Go straight
◆禅宗与景教 系列 06:蓦直去
◆禅宗と景教 シリーズ07:劫火洞然
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 07:The conflagration at the end of the eon
◆禅宗与景教 系列 07:劫火洞然

◆禅宗と景教 シリーズ08:拈華微笑
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 08:Flower Sermon
◆禅宗与景教 系列 08:拈华微笑
◆禅宗と景教 シリーズ09:両手たたいて商いせん
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 09:Do your business clapping both hands
◆禅宗与景教 系列 09:不如鼓两掌做生意
◆禅宗と景教 シリーズ10:七転八倒
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 10:Writhing in agony
◆禅宗与景教 系列 10:七颠八倒

◆禅宗と景教 シリーズ11:創造の時
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 11:The time of creation
◆禅宗与景教 系列 11:创世的时
◆禅宗と景教 シリーズ12:花婿と花嫁の部屋
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 12:Groom and bridal suite
◆禅宗与景教 系列 12:新郎与新娘套房
◆禅宗と景教 シリーズ13:命の泉
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 13:Spring of water welling up to eternal life
◆禅宗与景教 系列 13:永生的泉源
◆禅宗と景教 シリーズ14:放下着
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 14:Gelassenheit
◆禅宗与景教 系列 14:放下着
◆禅宗と景教 シリーズ15:罪祭の羊Ⅰ
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 15:Lamb of Sin-offeringⅠ
◆禅宗与景教 系列15:赎罪祭的羔羊Ⅰ
◆禅宗と景教 シリーズ16:罪祭の羊Ⅱ
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 16:Lamb of Sin-offeringⅡ
◆禅宗与景教 系列16:赎罪祭的羔羊Ⅱ
◆禅宗と景教 シリーズ17:罪祭の羊Ⅲ
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 17:Lamb of Sin-offeringⅢ
◆禅宗与景教 系列17:赎罪祭的羔羊Ⅲ
◆禅宗と景教 シリーズ18:厩戸皇子Ⅰ
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 18:Prince of Stable Ⅰ
◆禅宗与景教 系列18:厩户皇子Ⅰ
◆禅宗と景教 シリーズ19:厩戸皇子Ⅱ
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 19:Prince of StableⅡ
◆禅宗与景教 系列19:厩户皇子Ⅱ
◆禅宗と景教 シリーズ20:厩戸皇子Ⅲ
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 20:Prince of StableⅢ
◆禅宗与景教 系列20:厩户皇子Ⅲ
◆禅宗と景教 シリーズ21:インモの道
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 21:The way of Suchness
◆禅宗与景教 系列 21:恁么道
◆禅宗と景教 シリーズ22:本来の師
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 22:One's own teacher
◆禅宗与景教 系列 22:本来师
◆禅宗と景教 シリーズ23:身心脱落
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 23:Body and mind will drop off naturally
◆禅宗与景教 系列 23:身心脱落
◆禅宗と景教 シリーズ24:万法帰一
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 24:The myriad things return to one
◆禅宗与景教 系列24:万法归一
◆禅宗と景教 シリーズ25:接物利生
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 25:Guiding and Aiding Living Beings
◆禅宗与景教 系列25:接物利生
◆禅宗と景教 シリーズ26:唯嫌揀択
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 26:Just refrain choosing
◆禅宗与景教 系列26:唯嫌拣择
◆禅宗と景教 シリーズ27:六祖の襲名
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 27:The succession to the sixth patriarch
◆禅宗与景教 系列27:六祖的袭名
◆禅宗と景教 シリーズ28:非風非幡
◆Zen Buddhism and Nestorianism Series 28:Not the Wind, Not the Flag
◆禅宗与景教 系列28:非风非幡
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『聖霊のバプテスマ』とは一体何か
ヨハネ福音書の弁証法に従うなら、
【テーゼ】  『人は、人の子の証しを受け入れ、聖霊のバプテスマを受けることにより永遠の命を得られる(ヨハネ5:24)』。
【アンチ・テーゼ】  しかし、『地上の人間は、決して天から来たものの証しを理解できない(ヨハネ3:32)』。
それでは、地上の人間はどうして永遠の命を得られるのか。
【ジン・テーゼ】  『地上の人間は始めに神と共にあった言葉(ヨハネ1:1)に立ち返り、神が全き真理であることを自ら覚知すればよい(ヨハネ3:33)』。
文益禅師は「お前は慧超だ」と答えることにより、慧超自身の内に秘められた『真の自己(声前の一句)』を突きき付けたのである。(キリスト教の起源p.155)
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