【ニューデリー】インドとパキスタンの関係の悲惨な現状には複数の問題が関係している。これらの問題には、『両国の分離独立の古傷』、『長期にわたるカシミール問題』、『4回の武力衝突』、『インドに対するジハード・テロリズム』、『パキスタン社会の過激化』、『水紛争』、『イスラマバードの核武装』、『パキスタンにおける軍制と文民統治のバランス』、『対インド政策おける軍の支配』が挙げられる。
過去70年間に、パキスタンは文民統治と直接的軍政の双方を経験し、二国間には政府高官レベルの定期的な意見交換、協定締結や宣言の署名、事務レベルでの制度的対話、水面下の接触等の試みがなされたにも関わらず、双方の敵意は維持されて来た。こうした背景から、イムラン・カーン氏の勝利により、相互理解の改善が望めないだけでなく、二国間関係の処理は一層困難になるだろう。
カーン氏の勝利に道を開いたのは、パキスタン軍とパキスタン軍統合情報局(ISI:Inter-Services Intelligence)である。彼らは先ず、ナワズ・シャリフ前首相に対するカーン氏の街頭抗議活動を支持、次いで司法操作を通じ汚職の廉でシャリフ氏を首相の座からから追い落とし投獄した上、さらに選挙戦に乗じ複数のムスリム過激派と接触してパキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派の保守票田を分断、加えてメディアに圧力をかけた。カーン氏は過半数議席を制することができなかったこともあって、対インド問題では、シャリフ氏以上にパキスタン軍に傾斜している。シャリフ前首相は、軍に対する怨念に関わらず、カシミール問題でインド非難を展開、ムンバイ襲撃事件の法廷訴訟を進捗させず、ウリ急襲事件へのパキスタン聖戦グループの関与調査を怠り、印パ貿易問題にも積極的に対応しなかった。
カーン氏が、国民向けに、主に国連決議に従ってカシミール問題を処理する姿勢を強調したことは、驚くに当たらない。インドが一歩進めば、パキスタンは二歩進むと言う彼の発言は、ボールをインドのコートに入れることを意図したものである。しかし、カーン氏は、最初のステップをインドに期待しており、その真意は不透明だ。インドは対話の再開の前提として、テロリズムとの絶縁を求めている。彼の言う最初のステップがビジネスを意味するとすれば、カーン氏は聖戦グループ(特にハーフィズ・サイード)を制御せねばならない。しかし、これは、彼の宗教過激派とのつながりや聖戦組織を政治的主流にのせよう言うエスタブリッシュメントの戦略目標から見て、実現不可能である。
カーン氏のアフガニスタン政策は、同地におけるインドとイスラマバードの関係を一層悪化させるものと見られる。有益な相互貿易取引を通じた経済発展と貧困の改善は、言い古された陳腐なものだ。カーン氏は、パキスタンの経済建設においてメディナ・モデルを想起しているようだが、そこには深く複雑なイスラム風味が漂っている。本腰を入れた貿易関係拡大の動きは、インドの同地域との関係を妨害するパキスタンの既存の戦略と連動して、不可避的にインドとアフガニスタン及び中央アジアとの接続問題を生じさせるだろう。
カーン氏のナレンドラ・モディ首相に対するスワイプ(気の抜けたビール)や『インドは自分よりシャリフ前首相の方がましと考えている』と言った思い込みは、両国関係の改善には何の役にも立たない。さらに、彼もパキスタン軍も対インド関係の改善に真剣に取り組まないだろう。特にテロリズムに関しては。なぜなら、それはインドの外交的勝利に他ならず、インド人民党(BJP)の2019年選挙展望の改善に寄与することになるからだ。イスラマバードにおける指導者の交代とカーン氏の陳腐な発言は、インドがパキスタンとの建設的な対話の可能性を期待する理由にはならない。
筆者、カンワル・シバル氏は、インド政府の元外務次官。
【ニュースソース】
Will Imran Khan’s win further set back Indo-Pak ties?
○世界は一つ: