【ニューデリー】英国の専門誌Lancetに掲載された国際調査チーム(英国人1人とインド人1人を含む)の報告書が、インドの一部の病院で治療を受けた患者の腸バクテリアから発見された超強力耐性菌『ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ(NDM-1:New Delhi metallo-beta-lactamase)』蔓延の危険性を指摘したことから、抗生物質治療の将来に対する懸念が高まっている。
エコノミック・タイムズが8月16日報じたところによると、インドのエンテロバクター(enterobacteriaceau:腸内細菌)感染者の1~3%が保持すると見られる新遺伝子NDM-1は、今日存在する全ての抗生物質に耐性を有する。このためマスコミは『抗生物質治療の終焉』、『最後の審判の日』等とセンセーショナルに報道している。
しかし一層重大なことは、問題の報告書が、インドを訪れ治療を受ける患者はこの種の超強力耐性菌に感染する恐れがあると警鐘したこと。
イギリスの細菌学者アレクサンダー・フレミングが82年ほど前にペニシリンを発見した後、様々な抗生物質が登場、人類は多くの難病から解放された。
しかし、1994年3月、ニューズウィーク誌は『抗生物質治療の終焉?(The End of Antibiotics?)』と題する一文を掲載、米国科学振興協会(AAAS: American Association of Advancement of Science)が同年2月にサンフランシスコで催した定例会議でロックフェラー大学の微生物学者Alexander Tomasz教授が行った報告の内容を紹介した。同教授は「通常のバクテリアが抗生物質に対する耐性をますます強めている」とし、1992年時点で、米国の病院だけで1万9000人、それ以外の場所で5万8000人が抗生物質耐性菌の犠牲になったと報告した。
その後も抗生物質耐性菌の犠牲者は増え続けており、2005年には米国だけで200万人以上が感染、9万人が死亡した。また英国では30万人が感染、5000人が死亡したとされる。
今日、様々な抗生物質耐性菌対策が検討されており、その一つ、有害バクテリアを退治するファージ由来の溶菌酵素を用いたファージ療法(Phage therapy)に期待が寄せられている。いずれにしてもNMD-1は決して抗生物質治療の終焉を意味するものではないと言う。